2021年を占う経済キーワード

2021年 経済の教室

コロナ禍で大きく変わろうとしている2021年の経済。

それとともに政府は今年、温室効果ガスの排出量を2050年までに実質ゼロにすることを法制化する予定です。このことも経済にも大きな影響を与えます。

なぜ2050年?

政府が温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすることを2050年までに達成するとしたのは、「パリ協定」が絡んでいます。

パリ協定は2015年に「国連気候変動枠組条約締約国会議(通称COP)」で合意されたもので、世界の平均気温を産業革命以前に比べて1.5度に抑えるように努力するとするものです。

このパリ協定の目標を実現するには、2050年までに世界全体の温室効果ガス排出量を実質ゼロにする必要があるとされています。

温室効果ガスとは、人間活動によって発生する二酸化炭素やメタン、フロン等のことを言いますが、このうち二酸化炭素が大部分を占めています。ざっくり言ってしまえば温室効果ガス=二酸化炭素と考えてもいいでしょう。

二酸化炭素は石油や石炭を燃やすことによって発生しますが、これをいかに削減するかが問題となります。

カーボンニュートラル

実質ゼロということは、完全に排出量を無くすというわけではなさそうです。

この場合の「実質」とは、カーボンニュートラルのことを刺します。

カーボンは炭素ですから、これをニュートラル=中立の状態にすることです。

二酸化炭素は、森林や海洋によって吸収されます。

森林は植物による光合成ですね。

海も二酸化炭素を吸収します。二酸化炭素は水に溶けやすいのと、植物プランクトンによって光合成に使われるからです。

この森林や海洋によって吸収される二酸化炭素の量と、人間外排出する二酸化炭素の量を均衡させる=ニュートラルにすることを、カーボンニュートラルといいます。

つまり政府は、2050年までに人間が排出する二酸化炭素と森林・海洋が吸収する量を均衡させることを、法律で定める予定なのです。

森林率

カーボンニュートラルに関しては、緑が多ければ多いほど二酸化炭素を吸収してくれますから、実現は楽になります。

この点、日本は恵まれています。

なぜなら、日本は先進国の中でも群を抜いて森林が多いからです。

国土に占める森林の割合のことを「森林率」といいますが、日本は森林率が68%と先進国中2位か3位に位置します(年により異なります)。

1位はフィンランドで、スウェーデンと2位3位を争っています。どちらも森のイメージがある北欧の国ですが、日本も同じく森の国なんです。

ビヨンド・ゼロ

日本はカーボンニュートラルだけではなく、その先を目指す事を計画しています。

それがビヨンド・ゼロ

ゼロの先、という意味ですね。

ビヨンド・ゼロとは、カーボンニュートラルにするだけではなく、過去に排出された二酸化炭素までも削減する革新的技術を2050年までに確立することを意味しています。

ビヨンド・ゼロの具体策として、経済産業省は、環境を汚染しない動力源を意味する「ゼロ・エミッション」の実現に向けてチャレンジしている企業名を発表しています。

牛肉を食べるのは時代遅れ?

世界はこんな感じで、カーボンニュートラルに向けて大きく一歩を踏み出しています。

そんな中、2019年国連気候行動サミットに参加した小泉進次郎環境大臣が「毎日でもステーキを食べたい」と発言して、一部メディアからの批判報道がありました。

なぜステーキ=牛肉を食べたいという発言が批判されるのでしょうか?

美味しい肉を食べたいというののどこがいけないのでしょうか?

これは牛が大量のメタンを発生させているからです。

牛は反芻(はんすう:一度飲み込んだ食べ物を再び口に戻すこと)することで知られていますが、この反芻による消化過程でメタンが発生するのです。

さらに牛は大型哺乳動物としては、最も激増した動物です。

それは人間による家畜化が原因です。

牛は現在、15億頭いるとされていますが、2050年には26億頭と予想されています。

世界の人口は現在の77億人から2050年には97億人に増えると予測されていますが、この人口増加に伴って食料である牛の頭数も増えるからです。

これだけ増えると、温室効果ガスであるメタンの量も馬鹿にならいので、気候に関するサミットに出席した大臣として、「毎日ステーキを食べたい」はないだろう、ということなんです。

ヴィーガン

「毎日ステーキが食べたい」で批判されるぐらいですが、世界は牛肉を食べない方向に動いているんでしょうか?

その一つの象徴がヴィーガン(ビーガン)です。

ビーガンとは、ベジタリアンの中でも肉だけではなく卵・乳製品も口にしない完全菜食主義者のことを言います。

ヴィーガンはアメリカを中心に増えているといいますが、そのあらわれが「ビヨンド・ミート」という企業のNASDAQ上場でしょう。

ビヨンド・ミート社は、植物由来の人工肉を製造・開発している企業です。

アメリカでは大豆などで作られた人口肉のハンバーガーやステーキが一般的になりつつあります。

それにしてもビヨンド・ゼロといい、<ビヨンド>をつけるのが流行っているのは、時代の転換点であることのあらわれでしょうか。

人新世

カーボンニュートラルにしろ、牛のメタン問題にしろ、人間活動がもたらした結果です。

人間活動が地球環境をそのものを大きく変えてしまったので、今なんとかいなければヤバい、ということです。

このことが地質学の世界でも新しいキーワードを生みました。

それが「人新世」です。

地質学では、氷河期が終わった1万年前から現代までを「完新世」と呼んでいました。

ところが、人間活動が地球環境を変えてしまったので、今はもう完新世の時代ではないという学者が現れたのです。

1950年代以降は、人によって地球環境を変えたので、人新世と呼ぼうというわけです。

この名称は、今はまだ正式には承認されていませんが、今年中に承認されるかもしれません。

でもなぜ1950年代以降なんでしょうか?

地球環境を変えた歴史的な出来事といえば、18世紀の産業革命をまず思い浮かべますよね。

イギリスのジェームズ・ワットによって石炭を燃やす蒸気機関が発明(正しくは改良)され、世界は大量生産時代を迎えました。

石炭ですから二酸化炭素を出します。ですから産業革命以降を人新世と呼んでもよさそうですが、実は産業革命以上に地球環境にとって1950年代は大きな転換点だったのです。

それがグレート・アクセラレーションです。

グレート・アクセラレーションとは、1950年代以降、温室効果ガスの排出量や、人口、世界のGDP、エネルギー利用などが、急激に増えていったことを指します。

ここに世界のGDPが含まれていることからもわかるように、これは第2時世界大戦後、経済活動がグローバル化したことにより経済が急激に成長し、その成長の結果、温室効果ガスも増えていったという構図です。

このグレート・アクセラレーションが1950年代から始まっているので、人新世も1950年が基準となります。

人新世をもたらした?あるものとは

面白いのは、この1950年代といえば、世界経済のグローバリゼーションをもたらしたあるものの登場と重なることです。

それはコンテナです。

コンテは1950年代に規格が統一されました。

コンテナの企画が統一されたことにより、世界中のクレーン、船舶、トラック、鉄道の

設計もコンテナを輸送するために一変されました。

このことが輸送コストを激減させ、自由貿易が爆発的に増加させたのです。

ある意味、人新世はコンテナがもたらしたと言えるかも知れません。

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