量子コンピュータ最初の一歩 後編

Quantum 経済の教室

※この記事はTOKYO FMの経済ラジオ番組「ジュグラーの波~澤と美音のまるっと経済学~」2020年4月30日放送回の原稿を元に加筆・修正したものです。

 

「量子コンピュータ最初の一歩 前編」の続きになります。まだ前編を読んでいないかはこちらから。

 

4つの量子によるたし算

電子ちゃん、光子さんにはそれぞれ姉妹がいて、[電子ちゃん1(姉)] [電子ちゃん2(妹)]、[光子さん1(姉)][光子さん2(妹)]の4人としましょう。

姉妹[電子ちゃん1][電子ちゃん2]にしたのは、2桁の数字を表すためです。

[電子ちゃん1]が1、[電子ちゃん2]が0なら、[10]ですね。

 


 

ここで2進法についてお話ししておきましょう。知っている方は読み飛ばしてください。

コンピュータではすべてのデータを2進法の数字、つまり0と1で表現します。

1+1の答えは10進法なら2ですが、2進法だと、2で桁が一つ繰り上がりますから10となります。

  10進法  2進法

   0     0

   1     1

   2     10

   3     11

   4    100

 

なんで2進法みたいな面倒なことをするのか?

 

それはコンピュータで数字を表現するには、その方が簡単だからです。

従来のコンピュータは電圧の高低で0と1を表現しました。

これに対して量子コンピュータでは、ドアを開けて、つまり測定して量子がいた位置で0と1を決めます。

 


 

ではもとに戻って、

[電子ちゃん1] [電子ちゃん2]と、[光子さん1] [光子さん2]は、それぞれ2桁の数字を表しています。

ここで、[電子ちゃ1] [電子ちゃん2] + [光子さん1] [光子さん2]と計算してみると・・

 

 

[電子ちゃ1] [電子ちゃん2]の組み合わせは、[00、01、10、11]の4通りですね。
[光子さん1] [光子さん2]も同様の4通りです。

つまり、[電子ちゃ1] [電子ちゃん2] + [光子さん1] [光子さん2]の組み合わせは、
4×4の16通りあることになります。

 

量子コンピュータでは、この16通りの計算を、[電子ちゃん1][電子ちゃん2]+[光子さん1][光子さん2]という1つの式で計算することができてしまいます。

 

従来のコンピュータは、やっぱり16通りを1つずつ愚直に計算していかなければなりません。

 

これで手順が16倍速になりました!

 

これが3量子ずつのたし算だと64倍、4量子ずつだと256倍、5量子ずつだと1,024倍と、量子が増えていく毎に爆発的に手順が早くなります。

そして、15量子ずつ(全部で30量子)だと・・・何と10億倍!

  

量子コンピュータには秘密があった!

 

ちょっと難しくなったので、

話を [電子ちゃん] + [光子さん] の1量子+1量子に戻しましょう。

この場合、量子コンピュータでは4通りの計算が一気にできてしまいました。

つまり、量子コンピュータは複数の組み合わせを一気に計算できるため、計算の手順が省けて効率化できるんです。

 

計算の手順が少なくてすむ、これが量子コンピュータの最大の特徴です。

 

ん?待てよ!4つの計算式って・・

ドアを開けるまで0か1か分からないんだから、計算式が0+0になるのか、0+1になるのか、1+0になるのか、1+1になるのか、わからないじゃないか!

俺は1+1を計算したいのに、0+1の答えが出てきたって仕方ないよ汗汗

 

そうなんです。量子コンピュータでは(なにもしない素の段階では)、[電子ちゃん]+[光子さん]が、4つの足し算のどれになるのかわからないです!?

 

測定するためにドアを開けて、始めて「ああ、今回は0+1の足し算だった」、「今度は1+1だった」と分かるのです。

 

そんなの意味あるのか!

 

大丈夫です。

たとえば「1+1」が知りたいなら、量子状態をうまくコントロールして、だいたい狙った組み合わせを出すことができるんです。

 

特殊なマイクロ波を当てると量子状態をコントロールできるらしいのですが、この辺は難しい話になるので気になったら前編の最初に挙げた本を読んでみてください。

 

でもマイクロ波を当てるなどの操作をせずに、単純に「電子ちゃん」+「光子さん」と計算してしまうと、
4つの組み合わせのが出てくる確率は、それぞれ25%となるのは確かです。

 

したがって1回計算しただけでは、4つすべての計算の答えが出てきません。
だから複数回計算してみなければなりません。

では、実際に量子コンピュータでこの[電子ちゃん]+[光子さん]、つまり1量子ずつのたし算を試してみましょう!

実際に試すことなんて、できるのか!

できるんです!

IBM Quantum Experienceというサイトで、誰でも量子コンピュータを実際にいじることができます。

 

これについては、別記事の「1量子+1量子を実際に量子コンピュータでやってみた」に詳しく書きましたのでそちらを参照してください。

 

渋滞解消は量子コンピュータにお任せ!

 

ここまでの説明で、量子コンピュータの特徴を分かって頂けたでしょうか?

量子コンピュータの一番の凄さは、計算速度が速いのではなく、もの凄い数の組み合わせの計算を少ない手間で実行できてしまうことなんです。
CPUの計算速度が速いスーパーコンピュータとは、方向性が異なります。

  

組み合わせねえ・・それって実際どう役に立つんだよ?

 

たとえば渋滞解消。

車のナビがすべてネットで中央コンピュータに繋がっていることを想像してください。

あなたは、その中央コンピュータの頭脳。さて、どんなことを考えなければならないでしょうか?

 

車Aさんの車はこの道路を使うと、Bさんの車はこっちの道路、Cさんは・・・んーん、なんだか組み合わせを解いているみたいだ

 

そうなんです。渋滞解消とは、全体の車が最も効率よく目的地に到達するようにする組み合わせ問題なんです。

しかもリアルタイムに状況は変わります。計算に10分などかかっていては状況は一変してしまい、意味がありません。

 

従来のコンピュータは1つの組み合わせを計算して、次の組み合わせと順々に計算しますから、とても実用的ではありません。車30台の組み合わせでも、下手をすると何時間もとかかかると言われています。

 

これに対して量子コンピュータなら、何十億という組み合わせを一気に計算して、どれが一番効率的かをだいたい示すことができます。

瞬間的に答えが知りたいので、厳密な答えよりだいたいの%で十分なんです。

 

量子コンピュータはエコだった 

 

さらに量子コンピュータは電気をほとんど食いません。

従来のスーパーコンピュータは1台動かすのに原子力発電所1基が必要とされています。
しかもその電力の大半が、計算処理のためではなく冷却のために使われているのです。

これは従来のコンピュータが0と1を電圧の高低で示しているため、その電気エネルギーを熱エネルギーとして排出しなければならないからです。

これに対して、量子コンピュータはほとんど電気を使いません

 

エコだ!というのも量子コンピュータの特徴なんです。

 

その替わり、Googleなどが開発している量子コンピュータは超伝導を用いるため、液体ヘリウムという希少な資源を使います

このヘリウムは、日本では全く採れないためすべて輸入に頼っています。
これに対して、アメリは世界の産出量の50%超を占めるヘリウム大国です。

このことが量子コンピュータの開発で、アメリカが一歩先を行く原因ともなっています。

 

まとめ

これで量子コンピュータの概要をつかんで頂けたでしょうか。

  

前編の冒頭でデンソーがコロナ治療薬の国際プロジェクトに参加したとお伝えしましたが、デンソーは自動車部品メーカーですね。

なぜ、自動車部品メーカーのデンソーが量子コンピュータの国際プロジェクトに参加するのか?

もうおわかりですね。

デンソーは渋滞解消のための量子コンピュータの研究での実績があり、量子コンピュータの扱いに慣れているからなんです。

 

まとめ

・量子重ね合わせは2つの部屋に同時に量子が存在するという不思議な現象
・量子コンピュータはハード性能が爆速なコンピュータではなく、手順が省ける省力型コンピュータ
・渋滞解消のように同時に莫大な組み合わせを処理しなければならないことに向いている
・量子コンピュータはエコだ

コメント

タイトルとURLをコピーしました