国の借金の実情と、よくある誤解、そして国の借金はそんなに気にする必要はないと指摘する学説の論拠を説明します。
国の借金1,000兆円オーバー!
今年はコロナ禍で日本の財政政策も異例ずくめとなりました。
今年前半の全国民への10万円の定額給付、そして後半のGo Toトラベル、Go Toイートなどで国の財政支出は大きく膨らみ、その財源とするために今年度(令和2年度)に発行した国債は過去最高の112兆円にも上ります。
その結果、国債の発行残高は1,000兆円に迫ります。
1,000兆円って、日本の国家予算がおよそ100兆円ですから、その10年分!
正直、財源のことを考えると国民全員に10万円支給なんて、とてもやれるとは思っていませんでした。
それを断行した上で、さらに評判が芳しくないGo To施策とくれば、税収だけではとても足りませんから、国債が積み上がる、つまり国の借金が増えるのも当然です。
国債は平成元年から6倍!
国の借金とは、国債に加えて地方債(両者を合わせて公債)、民間銀行からの借入金、それに数ヶ月などの短期の借入に使われる政府短期証券の合計額を言います。
2020年(令和2年)3月末で、国の借金は1,114兆円となっています。
ここまで膨らんだ原因は、雪だるま式に膨らんでいる国債です。
平成元年(1989年)から比べると6倍にもなっています。

日本は世界一の借金大国!?
日本の「国の借金」を世界の国と比べてみると、上には上がいます。
世界一の借金大国、それはアメリカ。
国の借金にその他の負債を合計した国の負債の合計額は、アメリカは2,900兆円になります。
日本の国の負債は約1,200兆円ですから、倍以上です。
アメリカはトランプ政権による大型減税と国防費の積み増しなどで財政赤字が進み、ここにコロナ禍が重なってますますひどい有様となっています。
しかし国の負債をGDPの額との割合で観察すると、見え方は大きく変わります。
2017年度の「国の負債対GDP比率」のランキングは、日本がダントツで世界一です!
しかも比率の数字は235%と、2位のギリシャ179%を大きく引き離しています。
以下、3位バルバドス158%、4位レバノン149%、5位イタリア131%、6位エリトリア131%、7位コンゴ共和国125%、9位カーボベルデ125%、10位スーダン122%となっています。
(弊著「まるっと経済学」より)
3位のバルバドス、9位のカーボベルデはいずれも人口数十万人の小さな島国です。
4位のレバノンはつい最近デフォルト(債務不履行)を起こした国です。元日産のゴーンさんもここで逃亡生活を送っていますね。
そんな国々より遙か上をゆく日本、ある意味突き抜けています。
国民1人あたり901万円の借金って本当?
こういう状況になると必ず出てくる記事として、「国民一人あたり901万円の借金」というものがあります。
しかしここで誤解して欲しくないのは、国債は国民の借金ではありません。
逆に国に対する債権です。
国が国債をもっている国民(民間企業や個人)にお金を返済するのであって、国民はもらえる側です。
ですから本来であれば「国民1人あたり901万円の資産」とすべきものです。
ではなぜこのような報道が相次ぐのでしょうか?
それはその方がインパクトが大きいのと、国債の返済(償還)は将来の増税によって賄われると考えているからです。
MMTでは借金と考えない?
将来国の借金を返済する財源は税金しかないから、結局それは国民の借金だ、と考えると「国民1人あたり901万円の借金」となるわけです。
つまり国債などの返済の財源は税金だということが論拠にあるわけです。
ですが、これに真っ向から反対する経済学の学説があります。
それが今話題のMMT(Modern Monetary Theory)です。
MMTの日本語訳は現代貨幣理論です。
つまり貨幣の新しい考え方なんです。
一般に信じられている貨幣の起源は、物々交換するのが面倒なので、金とか銀とか貴重なものを交換手段として使った、というものです。
でもMMTはそう考えません。
MMTでは、貨幣は国が無から創造するものです。
国は貨幣、ここでは円としましょう、円という貨幣は無から創造して国民に配ります。
財源など必要ありません。ただ円を刷ればいいだけですから。
国の財政支出に財源など不要だ!
ただしそれだけでは受け取った国民がその貨幣を使ってくれるかわかりません。
そこで税金を課すのです。
税金を政府が発行した貨幣、ここでは円としましょう、この円で支払わなければならなくすることによって、国民は商売をするにあたってどうしても円を使わざるを得なくなります。
取引によって円を獲得しておかないと、税金が払えないからです。
これで円が貨幣として使われることが約束されます。
つまりMMTでは、円という貨幣は国が無から創造して配るものです。
だったら国債のような国の借金も、円を刷って返せばいいだけです。
税金という財源は必要ありません。
MMTでは国債の返済だけではなく、国が行う財政出そのものに税金を財源とする必要はありません。
2021年度の日本の税収は57兆円程度と予想され、支出予算は100兆円オーバーですから不足額は50兆円にもなります。
でもMMTではそもそも国の支出の財源に税収など必要ありませんから、お金を刷って100兆円を支出すればいいだけになります。
MMTでは日本やアメリカのような財政赤字は全く問題ないのです。
こう考えると気持ちが楽になりますね。
なお、財源が必要ないのに国が税金を課す(税収を得る)理由は、通貨を国民に使わせるためと、所得再配分、そして公害などを出す企業などにペナルティーを課すためだと考えます。
(MMTについてはこの本を参考にしています。「MMTとケインズ経済学」永濱利廣)
コロナ禍の今ハイパーインフレのおそれは?
MMTはケインズ経済学の新しい一派です。ニューケインジアンと呼ばれる中でも異質な学説です。
したがって本当にこの学説が正しいのか、まだ定かではありません。
国がお金を無から刷することができるのであれば、どんどんお金が増えていってしまい、ハイパーインフレになるという反論もあります。
このためMMTは、「自国通貨を発行している国は、過度なインフレになる恐れがないのなら、財政赤字を気にする必要はない」という条件をつけています。
さらに歴史的にハイパーインフレになった国は、戦費調達のために無分別に貨幣を発行した場合など、特殊なケースしかないと主張しています。
たとえば日本であれば昭和恐慌のときに高橋是清がおこなった財政ファイナンス(日銀による国債の直接引き受け)によって貨幣供給量が過度に増え、これが戦後のハイパーインフレをもたらしました。
お金が溢れているのに物資が足りない、こういう特殊なケースでのみハイパーインフレは起きるというわけです。
でも今はコロナ禍。
2020年の春にマスクの値段が高騰したことを忘れてはいけません。
すこしでも物資が不足すると、モノの値段は思った以上に急激に上がります。
そしてコロナ禍により世界のサプライチェーンは思った以上にぜい弱であることがわかりました。
MMTの論拠は決して荒唐無稽ではなく、納得できる部分もおおいにあります。
ただし「安定的な製品供給」、このことをいかに保障するかが、最大の課題です。
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