大手会計事務所であるPwCの予測では、2050年に日本のGDPは7位に転落します。
しかしGDPでは測れない人々が受けているメリットも増えています。
ここではGDPの基礎とその限界、新たな視点を説明します。
2050年のGDPランキング
先ほどのPwCの予測による2050年のGDPランキングはこうなります(購買力平価基準)。
1位中国61兆ドル
2位インド42兆ドル
3位アメリカ41兆ドル
4位がインドネシア12兆ドル
5位ブラジル9兆ドル
6位メキシコ8兆ドル
7位日本7.9兆ドル
インドネシアの躍進が目につきますね。
現在のインドネシアのGDPは約3兆ドルですから、30年で4倍になります。
これに対して現在の日本のGDPはおよそ5兆ドルですから、1.6倍にしかなりなりません。だから世界ランキングが現状の3位から7位に転落してしまうんですね。
ブラジル、メキシコよりも下になります・・
日本の経済、大丈夫でしょうか?
GDPって何?
ではこのGDPとはそもそもなんでしょう?
どうやって計算しているんでしょうか?
GDP(Gross Domestic Product:国内総生産)は、国内の経済規模を測る最も基本的な指標です。
ここでカニ缶だけを造っている国を考えてみましょう。
まず漁師さんがカニを採って、食品会社に80万円で直接販売します。
このときもし原価がかかっていないとすると、漁師さんの儲けは80万円。
食品会社は80万円で仕入れたカニを缶詰にして大手スーパーに150万円で卸します。
80万で仕入れたカニがカニ缶になって150万円で売れたわけですから、食品会社の儲けは70万円です。
大手スーパーではこのカニ缶を消費者に全部販売して200万円の売上なりました。
150万円で仕入れて200万円で売ったわけですから、大手スーパーの儲けは50万円!
では、このカニ缶だけを作っている国のこの時点でのGDPは・・・・
80万円+70万円+50万円=200万円となります。
これがGDPです。
簡単に言うと、GDPとは国内の経済活動で企業が儲けた粗利の合計です。
専門的には、付加価値の合計額といいます。
なお、この200万円という数字は、上の例では最終消費者に販売した大手スーパーの売上高、逆に言えば消費者が支払った額と同額です。
これは偶然ではなく、GDPは生産者の視点から見れば付加価値の合計額なんですが、消費者の視点から見ると、消費の合計額でもあります。
GDPは付加価値の合計値であるとともに、消費の合計値でもあるんです。
これに所得の視点も加えて、GDPの「三面等価の原則」といったりします。
GDPは戦費調達のための指標
もともとGDPは世界大恐慌のあとのアメリカで、経済成長をどれだけしているかを測る指標として、経済学者のクズネッツという人が考えました(当初はGNP国民総生産で、後にGDPに変更されました)。
不況から脱出しているのかを測る指標として考案されたGDPですが、それが第二次世界大戦が勃発することで、いくら戦費調達ができるかを計算するための指標と使われるようになりました。
GDPで国内の経済規模を測り、いくらまでなら戦費としての資金が調達できるかを計画する道具として使われてしまったのです。
ですから、そんなGDPが世界で何位になった、何位まで落ちてしまった、とかいうのは、むしろ時代遅れでかっこ悪いかもしれません。
開発者であるクズネッツ自身、「GDP(GNP)は福祉の指標にはなり得ない」、と警告しています。
さらにGDPでは測ることができないサービスも増えています。
それがSNSやゲームの基本無料なサービス、それにNetflixなどのサブスクモデルです。
日本人はLINEを仕事でもプライベートでも使っていますが、消費者が受けるメリットは9兆円を超えると試算されています(日経新聞2021/4/29 Deep Insight)。

でもLINEは基本無料であり、この分はGDPにはカウントされません。
YouTubeやTwitterも同じように多大なメリットを消費者は受けているはずですが、基本無料であり、GDPには反映されません。
Netflixのような動画配信サービスは、月額千円ちょっとの定額を払っていれば、どんなに動画を見ても追加料金はかかりません。
動画を見れば見るほど、そのお得感は高まっていきますが、そのお得感はGDPに反映されることはありません。
むしろNetflixを見れば見るほど、既存のDVDは売れなくなり、DVD産業に関わる企業の粗利は減り、結果GDPは減少していきます。
つまり、私たちの生活はサブスクなどのイノベーションによって豊かになっているのに、GDPは減少してしまうことになるのです。
このように、GDPは、私たち国民がどれぐらい豊かに暮らしているかを示す指標としては、ますますマッチしないものになってきているのです。
幸せ度を測る新たな指標
そこで日本の政府も「GDP重視からWell-being重視へ」という提言をしようとしています。
Well-beingというのは、イタリア語「benessere(ベネッセレ)」を語源した言葉で、人として「よく在る」ことをあらわす概念です。
Well-beingを高めることができれば、GDPが低くても国民は幸せなはずだということです。
でもGDPのような何か指標がないと、うまくいっているのいていないのか、測定ができません。
「測定なくして改善なし」という言葉もあるぐらいです(誤訳だという指摘もありますが、だとしてもいい言葉ですよね)。
現在もWell-beingの測定方法は、あるにはあります。
世界幸福度ランキングというものもあるぐらいです。
その測定方法としては、「キャントリルの階梯」という方式が使われます。
人生をはしごと見立てて、最上段が10で最下段が0とし、「あなたは幸せですか」といった問を10から0で答えてもらうアンケート方式のものです。
でもこの方式、日本人には向きませんね。
あなたはどれくらい幸せですかと問われて、10と答える日本人は少ないでしょう。
たとえ幸せであっても、多くの人が5とか6という中ぐらいに数字に○をするのではないでしょうか。
つまり、この方法は国民性によって解答がかなり違ってくる可能性があるんです。

実際、2019年の世界幸福度ランキングでは日本はなんと58位です!
1位フィンランド、2位デンマーク、3位ノルウェーと北欧が続きます。
だからもっと正しく測定できる新しい方法がないか、と今、模索している途中です。
日本は「GDW:Gross Domestic Well-being国内総充実」という指標を提唱しようとしていますが、どのような測定方法になるか、詳細はまだわかりません。
どんな測定方法がいいのか、みんなで考えていくことが大事でしょうね。
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