初心者でも分かる囚人のジレンマ/トイレットペーパー騒動(後編)

トイレットペーパー騒動 経済の教室

トイレットペーパー騒動をゲーム理論の囚人のジレンマという手法で解き明かします。

こちらの記事は「トイレットペーパー騒動の真実(前編) ゲーム理論」の続きです。
まずは前編の記事をご覧になってから、こちらをお読みください。

 

※この記事はTOKYO FMの経済ラジオ番組「ジュグラーの波~澤と美音のまるっと経済学~」2020年5月28日放送回の原稿を元に加筆・修正したものです。

 

囚人のジレンマの想定

トイレットペーパー騒動を説明するために、ねずみ小僧とねこ小僧という二人の泥棒と警部の駆け引きを想定します。

  超富裕層のA氏邸宅に忍び込みダイヤを盗んだねずみ小僧とねこ小僧
  でもどちからがドジを踏んで、指紋を残してしまい、捕まった。
  だが二人は捕まる前にダイヤをある場所に隠した。
  鬼警部、澤渡は二人を自白させるために、ある条件を出すことにした。

鬼警部が出した条件とは

澤渡は二人を別々の取調室に入れると、まずはねずみ小僧から取り調べに入りました。

 

・澤渡刑事とねずみ小僧との会話

「今ここでねずみ小僧、つまりおまえ一人が自白して、ねこ小僧が自白しなかったら、おまえを無罪にしてやろう」

「無罪だと、それは本当か」

「本当だとも。検察とは話がついている。司法取引というやつだ。書面にしてもいい」

「無罪か・・・」

「もし逆に、ねこ小僧一人が自白し、おまえが自白しなかったら、おまえだけ禁固5年となる」

「二人とも自白したらどうなるんだ」

「その場合は、仲良く二人で禁固4年だ」

「二人とも自白しなかったら?」

「二人とも自白しないでダイヤが出てこなければ窃盗罪が成立しないから、住居侵入罪の2年だけということになる。それはあり得ないだろうけどなあ」

「だが二人とも自白しないのが一番刑が軽い」

「そういうことになる。だがな、おまえは必ず自白するさ。これからは俺はねこ小僧にも同じ条件を持ちかける。これはゲームのようなものだ。ねこ小僧がこの条件にどう反応するか、よく考えて判断しろ」

そう言うと澤渡警部は部屋を出て行き、ねこ小僧の取調室に入って行きました。
もちろん、ねこ小僧にも同じ条件を出すためです。

条件表

澤渡警部が二人に出した条件を表にまとめると、次のようになります。

そして澤渡警部は自信ありげに呟きます。

「必ず二人とも自白する。だからやつらは禁固4年だ。まあ、上々の出来だろう」

なぜ澤渡警部は自信があるのでしょう?

「ねずみ小僧もねこ小僧も、かならず相手の出方を予想して自分がどうすればいいか判断する。これはゲームだからな。だったら必ずやつらは二人とも自白する」

さて、澤渡警部の予想は的中するでしょうか?

ゲーム理論「囚人のジレンマ」

結論から先に言いますと、ゲーム理論では、必ず二人とも自白することになります。

なぜなら、相手の出方を予想してベストな選択をするのがゲームだからです。

お互いにベストな選択をしている状態を、「ナッシュ均衡」と呼びました。

二人とも自白するという状態が、このナッシュ均衡になるんです。

 

ねずみ小僧のアタマの中の思考に見ていきましょう。

①ねこ小僧は自白しないと予想するケース

「ねこ小僧が自白しないと予想すると、俺はどうすればいい?俺も自白すれば二人とも禁固2年か。俺が自白すれば・・・俺は無罪!だったら自白した方がいいに決まっている」

②ねこ小僧が自白すると予想するケース

「ねこ小僧が自白すると予想する場合は、どうだ?俺が自白しないとするとあいつだけが無罪で俺は禁固5年だ。これはあり得ん。俺も自白して二人とも禁固4年にするほうがいいに決まっている。するとやっぱり自白を選ぶことになるな」

どうですか、澤渡警部の言ったように、ねずみ小僧はどちらの予想でも自白を選択することになりましたね。

ねずみ小僧がねこ小僧の行動を予測して自分のベストな選択をした結果、ねずみ小僧は必ず「自白する」を選択することになります。

これはねこ小僧にとっても全く同じことが言えます。

これがゲーム理論における「囚人のジレンマ」と呼ばれる現象です。

 

本当は二人とも自白しなければ禁固2年で二人とも得なはずなのに、どうしてそうならなんだ?

 

と思う方もいるでしょう。

ゲーム理論に基づいて相手の出方を考えてベストな動きを選択すると、必ずしも全体の利益が最高になるとは限らないのです。

だから「ジレンマ」というわけです。

トイレットペーパー騒動の真実

今回のトイレットペーパー騒動も囚人のジレンマ的だといえます。

「自白する」を「急いで買う」、「自白しない」を「あわてない」と置き換えればいいわけです。

するとどうしても急いで買うことを選ぶことになります。

「急いで買う」が、お互いにベストな選択をしている状態であるナッシュ均衡となるからです。

現実もやはり、ゲーム理論どおりになってしまいました。

人間というのは、他人の行動を予想して自分の行動を決めがちだからこうなってしまうんですね。

ここから導かれることは、コロナウィルスのような疫病や災害が起きたときの人間行動がこうなることを予想して、トイレットペーパーやマスクのような商品については店舗での販売方法を政府が早急に決定し、報道もそのことの正当性を明瞭に伝えることを注力すべきだ、ということだと想定されます。

台湾の「Eマスク」がいい例ですね。
(Eマスクについてはフォーブスの記事が詳しいです)

日本人の倫理観をどうこう言うよりもまず、政策や報道のあり方を考えなければなりません。

囚人のジレンマでは説明できない

ただし、トイレットペーパー騒動は「囚人のジレンマ」では説明しきれないことがあります。それは、普段、買い占めが起きないことの理由についてです。

囚人のジレンマでは、お互いにあわてて買うがナッシュ均衡となりますから、普段でもこの状態がベストな選択であるはずです。

でも現実にはそうはなりません。

この点をうまく説明できるゲームとして、「協調ゲーム」というものが考え出されました。

協調ゲームが囚人のジレンマと異なるのは、相手が自分と同じ行動を採ったときに高い点数(利得=満足度)を与える点です。

やや応用問題になりますからここでは簡単にしか触れませんが、企業戦略の分析としても使われるので、気になった方は本などで調べてみてください。

得点(利得)のつけ方については、日経ビジネスの記事が詳しいのでこちらを参照してください。

トイレットペーパー騒動では、「二人ともあわてない」と「二人とも急いで買う」が、同じ行動をとったケースですから、ここがナッシュ均衡になります。

上の2つのうち、「二人ともあわてない」という行動をとった利得が一番高くなります。

自分で買いたいタイミングで買えますし、急いで買いに行くというリスクを冒すこともないので、ここの利得が一番高いのは頷けます。

こうなるためには、供給は通常どおり行われている、だから在庫は簡単にはなくならない、という「期待」が大事になります。

この「期待」をいかに作るかが、政策や報道のあり方となります。

 

以上、トイレットペーパー騒動の真実 ゲーム理論/囚人のジレンマでした。

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