バイデン大統領の200兆円に及ぶ経済対策から景気回復期待が強まりましたが、そのことが一時的な株価下落をもたらしました。
今回の記事はその原因について、わかりやすく説明します。
景気回復期待で株価暴落?
先月2021年2月26日に株価が大暴落しました。1,200円の下げというのは過去10番目の下げ幅です。今はもう持ち直していますが、なぜこのような急落が起きたのでしょうか?
実はこれ、アメリカの景気がよくなるという期待から始まりました。
この下落はある意味教科書的なものであり、予測できた機関投資家も多かったと思います。予測できたということは、これで儲けた人もいるということ。
結局、こういうことがわかっている人が勝つというのが、金融の世界です。
株価下落に至るまでの背景について、ニュース風にまとめした。この文章を読んでなるほどね、と理由がわかった方は、もうあとの記事を読む必要はありません。なんだかさっぱりわからなかった方は、是非最後まで読んでください。
「2月25日のアメリカ債券市場で、金利が1年ぶりとなる1.6%台へ急上昇しました。これはバイデン大統領が表明している200兆円規模の経済対策による景気回復期待が高まり、国債が売られたためです。このアメリカ債券金利の上昇により、為替は円安ドル高へ、そして株式市場ではハイテク株を中心に売りが優勢となり、ナスダック総合指数は3.5%安と大幅に落ち込みました。これを受けて翌26日の日本の株式市場では、日経平均株価が1,200円下落、史上10番目の下げ幅を記録しました」
日本の株価下落のスタートは、バイデン大統領の200兆円の経済対策の発表です。
この経済対策が発表されたのが1月中旬ですから、このとき近い将来株式下落が起きる、と予測できればその対処が十分できたでしょう。
国債の取引額は株式の3倍
株が下落の原因を知るには、まず景気がよくなるという期待が金利を押し上げる仕組みを理解する必要があります。
国債は貸し倒れる可能性が限りなく小さい安全資産ですけど、その分利回りが低い金融商品なで、景気がよくなれば国債を売ってもっと利回りのいいもので運用したくなります。
このため景気がよくなるという期待が高まると、国債が売られます。
国債には専門の市場があり、さかんに売買がされています。一般の私たちが参加することができない市場なのであまり知られていませんが、国債の年間取引額(地方債などを含む債券全体)は日本だけでも年間2,000兆円と、約800兆円である株式の3倍近い規模です。国債(債券)のほうが株式より圧倒的に売買量が大きいのです。
国債(債券)の市場は、日本では日本相互証券が運営しています。一般の人は参加できず、機関投資家が参加する市場です。
その国債市場で、景気がよくなるという期待が大きくなると、国債の売り注文が多くなります。
売りが多いということは、たとえば100万円の国債を99万円で売ってもいいという機関投資家が出てきます。
たとえば9年前に100万の国債を買った人の気持ちを考えればわかりやすいでしょう。この国債は償還期限が10年、金利が1%だとすると、9年間毎年1万円のクーポン、つまり利息を受け取っています。合計9万円儲けていたわけです。
ここで早くこの国債を売りたいと思うのなら、たてえ額面100万円の下回った99万円で売却しても、損はたかだか「99万円-100万円=△1万円」です。トータルで考えても「利子9万円-売却損1万円=8万円」の儲けが残っています。
だったら今すぐ売却して資金化し、早くもっと割のいい金融商品へ乗り替えたいと思うわけです。
このようにして景気回復期待は、国債を早く売ってしまいたいという気持ちを呼び起こし、国債の価格を下落させます。
逆に額面100万円より1万円安く買った購入者は、1年後には額面通りの100万円が償還(返済)されるます。「利息1万円+償還益1万円=2万円」もうかることになります。
つまり、安く買うほど償還損益を含めたトータルの利益は高くなります。このトータルの利益のことを利回りといいます。
国債には、額面に%を掛けて計算される「利子」と、この「利回り」という二つの似たような表現があるので混同しないようにしてください。利回りというのは、利息だけではなく元本の売却損益も考慮した利益率のことです。
利子と利回りとの区別を明確にするため、利子の計算に使う%(額面100万円×1%の、1%という利率)のことを「表面利率」と言ったりします。
日米金利差
まとめると、国債市場で売る人がたくさんいて、国債価格が下がると、利回りが上がることになります。
国債の売買高は先ほど書いたように株式以上に莫大です。
したがって少しの利回りの変動が金融市場に多大なインパクトを与え、大量の資金移動を生じさせます。
国債の利回りというのは、皆さんが思っている上に金融市場に影響力を持っている存在なんです。
このため国債の利回りを、市中の金利の代表数値として使ったりします。
特に日米の金利の違いを見るケースでは、どちらも償還期限10年の中期国債の利回りを比較して「日米金利」と表現します。
金利差と言いながら、実態は利回りの差なのです。
アメリカの景気回復期待は円安ドル高へ
ではバイデン大統領の200兆円に及び経済対策によって、ドル円為替レートはどう動くでしょうか?
先ほどの説明したように、景気回復期待によってアメリカの金融市場の金利(利回り)が高くなります。
日本の金利はさほど上がっていませんから、日米金利差が開きます。
実際、2020年12末での日米金利差(10年物国債)は、0.883%だったのが、2021年2月末では1.235%まで開いています。
この日米金利差が開くことで、ドル円為替レートは「円安ドル高」へ動きます。
日本よりアメリカの金利がいいのであれば、円を売ってドルに替え、そのドルで米国国債などを運用すれば儲かることになります。
このためインターバンク市場で円売りドル買い注文が増え、円安ドル高へと向かったのです。
ドル円為替レートについては別記事で詳しく書いています。
以上が、バイデン大統領の200兆円経済対策発表による、国債売却の動き、金利(利回り)の上昇、円安ドル高の一連の仕組みです。
ではなぜこのな動きが、1,200円にも及び株価下落をもたらしたのでしょうか。
これについては(2)へ。
今回の記事は「小学生でも理解できる グラレコで学ぶ経済本」を元に書いています。
※なおここで解説しているのはあくまで教科書的な説明です。実際の為替レートや株価は複雑な要因で動きます。株式投資や債券投資は損をすることもあるリスク商品ですから、必ず自己の判断で行ってください。
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