今回もハーバードビジネススクールのケーススタディ「AKB48のグローバル展開」から、海外戦略にはどんなハードルがあるのかについて学びましょう。
前半はこちらから。
SGO、CGMって、どこ?
AKB48グループは、世界中に増えています。
JKT48やBNK48など、都市名を略した名称を付しています。
JKTがジャカルタJAKARTA、BNKがバンコクBANGKOKですね。
ではSGO48、CGM48、MUB48、DEL48といえば、どこの都市だかわかりますか?

(画像出典:https://www.akb48.co.jp/)
正解は、
SGOが、ベトナムのサイゴンSAIGON(ホーチミンの旧称です)、
CGMが、タイのチェンマイCHIANG MAI、
MUBが、インドのムンバイMUMBAI、
DELが、インドのデリーDELHI
世界展開の壁
AKB48の海外展開はインドネシアのJKT48からスタートしました。
その際、曲を日本語で歌うのか、現地の言葉に直すのか、についての議論があったそうです。
結局、現地の言葉で歌うことになったのですが、生活慣習の違いが翻訳作業を難しくしました。
たとえばAKB48の代表曲の一つ、大声ダイヤモンドの出だしはこうです。
走り出す バス追いかけて 僕は君に 伝えたかった
日本ではバスは学生にとって一般的な交通手段でしょう。
しかしインドネシアは交通渋滞がひどく、排ガスもすごいため、同じ歌詞の意味合いが全く違うものになってしまいます。
バスを追いかけていったら、排ガスまみれになってしまう・・・。
ではどうしたかというと、
結局、日本語と同じ歌詞を採用しました。
AKB48総監督向井地美音さんの意見では、「日本の生活様式がインドネシアでも理解されるようになっているのでは」、ということでした。
YouTubeやアニメを通して、日本の学生はこう暮らしているというのは、意外と浸透しているのかもしれません。
当時のスタッフも、バスを追いかけるというのは日本のドラマなどでよくある情景だ、だからインドネシアでも受け入れられる、と判断したのでしょう。
若い女の子が一生懸命がんばる、が理解されない
AKBの核となる考え方を、JKTのメンバーに浸透させるのも難しかったといいいます。
それは、「一生懸命がんばる」ということです。
日本以外の海外では、「若くて可愛い女の子が一生懸命がんばることが美しい」、という発想がないのです。
日本では、「がんばる」というのが学校生活の一部になっています。
勉強でも運動会でも学園祭でも、日本人はがんばることが好きですし、アイドルがひたむきにがんばれば応援したくなります。
しかしその発想自体が海外では理解されないのです。
ハーバードビジネススクールのアルカーセル教授も、インタビューで次のように述べています。
「特定の国の固有の文化から生まれた産物を外国へ売るというのは、自動車や航空機とは違って、非常にハードルが高い」(日経スタイル出世ナビ)
タイで社会現象になった勝因は?
AKB48のグローバル展開での最大の成功例は、タイのBNK48でしょう。
日本文化そのものを輸出するというハードルを乗り越えて、「恋するフォーチュンクッキー」はタイで社会現象ともなりました。
勝因は何でしょう?
日経Xトレンドの記事では、次のような点を挙げています。
・タイはもともと親日国で日本のアイドル文化を素直に受け入れられたこと
・日本のアイドル文化とタイの文化を絶妙にマッチングさせたこと
・韓国アイドルのような完成されたパフォーマンスを鑑賞するのではなく、日本流の未完成なアーティストを育てながら楽しむ文化が理解されるようになってきたこと
日本の音楽産業は縮小している
ただ、そのタイでもK-POPは絶大な人気を誇ります。
世界の音楽産業の市場規模を見てみると、ランキングは次のようになります。
1位アメリカ
2位日本
3位イギリス
4位ドイツ
5位フランス
6位韓国
日本はまだまだ音楽大国です。アメリカと日本で、世界のほぼ半分の市場を占めます。
ただ、2019年の日本市場は、前年比△0.9%と縮小しています。
これに対して、6位の韓国は前年比+8.6%と成長を続けています。
(出典:「Global Music Report2019」IFPI)
韓国は、相手国の緻密なマーケティングで勝負する戦略があたっています。
BTSが米ビルボード1位を取り、さらに勢いが増しています。
AKB48フォーマットは世界へ
日本のAKB48のフォーマットは、日本のアイドル文化そのものを輸出することです。
アジアだけではなく、欧米にも広まったらと、夢が膨らみます。
欧米は日本文化への理解が深いアジアと異なり、いまだにニンジャ、ゲイシャが日本の象徴と思われているフシがあります。
欧米の映画の中に出てくる日本の風景は、日本の現実からかけ離れているとしか思えないものも多くあります。
そこにAKB48のフォーマットを輸出するのは困難を極めるでしょう。
しかし可能性はある、と秋元康氏は考えています。
若い女の子達がとにかく一生懸命やっているというものをそれまで見たことがないからですよ。見たことがないものを見せる、それこそがエンターテインメントの本質
世界中に日本の文化を広めて欲しいと願っています。
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