この記事はベーシックインカムの基礎と実現可能性についてまとめています。
スペインが導入?
今年2020年6月にベーシックインカムに近い制度を導入した国があります。
それはスペイン。
世帯人数に応じて最低所得水準を定めて、それを下回ったら差額を支払うという制度です。
一人世帯なら月462ユーロ(約5万5千円)、そこに一人増える毎に139ユーロ(約1万7千円)が加算され、月1,015ユーロ(約12万円)が限度となります。
たとえば夫婦二人子供一人の場合、月約9万円が保証されることになり、所得がそれ以下だと差額が支給されます。
月9万円で家族が食べていけるかは微妙ですが、家賃さえなければ何とかなるレベルでしょうか。
つまりスペインが導入したのは貧困対策としての制度です。
ベーシックインカムの種類
ベーシックインカムには、大きく分けて2種類あります。
1.定額支給方式
2.負の所得税方式
ベーシックインカムというと、収入に関係なく一定額をもらえるというのが一般的な印象でしょう。
これは定額支給方式のことです。
この方式だけをベーシックインカムと呼ぶという団体などもあります。
負の所得税方式というのは、たとえば納めるべき税金が30万円としたら、そこから一定額を控除し、その結果マイナスとなった場合は差額を国から支給するというものです。
負の所得税方式
ここで所得税は次の4ステップで計算されます。
【所得税の計算方法】
- 収入-必要経費=所得
- 所得-所得控除=課税所得
- 課税所得×税率=税額
- 税額-税額控除=納付額
4.の税額控除というものが先ほど述べた「税額から控除する一定額」のことです。
たとえば③の税額が30万円として計算され、④の税額控除が100万円だとすると、30万円-100万円=△70万円となります。
この場合、国から70万円が支給されることになります。
税額がマイナスになったら支給するから負の所得税方式と呼ばれるわけです。
所得が少ない人にだけ支給することになりますから、スペインのやり方もこれに近いですね。
定額支給方式
これに対して典型的な定額支給方式のベーシックインカムとしては、たとえば
・20歳以上の人全員に
・収入に関係なく毎月数万円給付する
といった方式が議論されてきました。
毎月の額は論者により異なりますが、「ベーシック・インカム~国家は貧困問題を解決できるのか~」(中公新書/原田泰著)という本では7万円としています。
家族3人で、3人とも20歳以上であれば、7万円×3人=21万円が毎月、収入にかかわらず入金されるわけです。
結構な額になります。
これならAIにより初歩的な仕事が世の中からなくなっても、なんとかなりそうです。
ベーシックインカムの財源
しかし、毎月7万円のベーシックインカムを実現するには、多額の財源が必要です。
その額、なんと年間90兆円!
日本の税収はおよそ60兆円ですから、とても足りません。
国家予算でみても100兆円ですから、ほぼ2倍の予算が必要となります。
国家予算を増やすには、税金を増やすか、国債などにより借金をするしかありません。
1年限りの特例ならともかく、恒久的にベーシックインカムを実現するために毎年90兆円も国債を発行するのは現実的ではありませんから、やはり増税という議論になります。
増税で考えられるのは
- 消費税を20%にする(20兆円ぐらいの税収増)
- 所得税の税率をシンプルに一律30%、配偶者控除などの所得控除はすべて廃止(60兆円ぐらいの税収増)
といったものでしょうか。
中間層はかなりの増税
日本の所得税の税率は、課税所得の額によって変化します。これを累進課税といいます。

これを取りやめて一律30%にしてしまうと、特に中間層に取っては大幅な増税になります。
たとえば、年間所得600万円の人には5%から20%の税率がかかって、単純計算だと所得税は50万円ぐらいとなります。
これが一律30%だと所得税は180万円となり、130万円も増税になってしまうわけです。
増税の代わりに月7万円もらえるというのが受け入れられるか、どうかですね。
もちろん家族3人であれば年間250万円がベーシックインカムとして入ってくるので、増税してでもこちらの方がいいことになります。
一人暮らしの人が辛いことになりますから、結婚する人が増えるかもしれません。
AIがベーシックインカムの救世主?
ただし、税金を上げる以外の方法が実現するかもしれません。
それがAIです。
AIやIoT、ロボットによって、今、製造業では工場に人が要らなくなりつつあります。いわゆる無人化工場ですね。
それまで工場で一番問題だったのは人の管理でした。管理の仕方により、効率に大きな差が出ていたのです。
それが人がいなくなって全部機械がやってくれるなら、工場は誰が管理しても同じことになります。
だったらその工場を共有化して、そこから得られる利益をベーシックインカムに回すということも考えられます。
これはヤニス・バルファキスというギリシャの経済学者などが提唱している案です(出典:「父が娘に語り経済の話」ダイヤモンド社/ヤニス・バルファキス)。
社会主義的な経済を想像される方もいるかもしれませんが、そうではありません。
今経済は、地域のコミュニティによるシェアリングがどんどん進んでいきます。
ドイツでは、再生可能エネルギーを地域コミュニティが協同出資して運営管理している例がたくさんあります。
その地域コミュニティを一般の工場にまで拡大すれば、そこから得た利益をベーシックインカムとして配分することも可能だという考えです。
世界が大きく変わりつつある今、こういう形のベーシックインカムも、決して夢物語ではないかもしれません。
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