アフターコロナの経済 デフレかインフレか

マスクをする女性 経済の教室

 

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2020年の世界経済はマイナス成長と予想されています。
世界銀行などの予測では△6%程度まで落ち込みます。

ではこの経済停滞でモノの価格、つまり物価は下がるのでしょうか?それとも上がるのでしょうか?
つまりデフレになるのか、インフレになるのか。

実はどちらにも動く可能性があり、ここではその理由と私たちの暮らしへの影響を探ってみたいと思います。

インフレになる?その理由と損をする人

まずインフレになる原因から探っていきましょう。

インフレになる原因1

コロナ問題で世界的な製品の供給不足となる恐れがあります。

モノが少なくなるのですから、物価は上昇します。

現在の世界経済は、原材料や部品が世界各地から供給され、世界にある工場で生産されて世界に向けて出荷するという、網の目のような体制で成り立っています。

これをサプライチェーンといいます。

このサプライチェーン、通常時であれば最もコストが安い箇所から原料等を仕入れて生産することができるので、効率的な製造をすることができます。

しかし世界各地にサプライチェーンが及んでいるため、いったん今回のようなコロナ問題などが起きると、どこかでそのチェーンが途切れ、生産が思うようにできない結果を招きます。

サプライチェーンは繊細でぜい弱な仕組みであることが、今回のコロナ問題でわかりました。

実際、一時期iPhoneやAirPodsの生産が止まり、供給不足になってネットでは高値で販売されるという事例も起きました。

今後もこのようなことが続くと、インフレになる可能性もあります。

インフレになる原因2

積極的な金融緩和政策により、貨幣の供給量が増えていることが物価上昇を招く恐れがあります。
日銀などの世界の中央銀行は、貨幣の供給量を増やしているのです。


このことがインフレを招くという仕組みは、なかなか直観的にはわかりづらいので、ここでは例を挙げて説明したいと思います。

あなたはある王国の中央銀行総裁です。
国民は100人のみ。
食料は牛タンだけで、しかも年間100トンのみ。それ以外に買うモノは一切ありません。みんなタダで支給されます。
中央銀行総裁であるあなたは、最初に100万円だけ発行します。
すると、牛タン100トンに対して貨幣は100万円しかありませんから、1トンと1万円が対応することになります。
他に買うモノがないので、牛タンの価格は1万円となります。

さらにあなたは、コロナ対策のために100万円の紙幣を追加発行します。

すると王国には200万円の紙幣があることになります。
自分の手元に2倍のお金が手に入りましたから、1トン2万円出してもいいと言い出す人が必ず出てきます。
牛タン販売企業は高く売れた方がいいですから、2万円で売るようになります。
これで牛タンの価格が2倍の2万円となりました。
これが貨幣の供給量増加によるインフレの仕組みです。

今世界では貨幣の供給量をどんどん増やしています。

たとえば日本では、マネーストックと呼ばれる貨幣の供給量は、今年5月に+4.1%増とここ10年で最高の伸びとなりました(前年同月比)。

マネーストックというのは、簡単にいうとすべての人の銀行通帳の合計額です。
この指標で、どれだけ市中にお金が出回っているのかわかります。

ではインフレになった場合、損をするのは誰でしょうか?

モノの価格が上がるので、企業は売上が増加し得をします。
王国の例で言えば、牛タン販売企業は同じ100トンを売るのに1万円だったものが2倍の2万円になったので、その分売上と利益が増えます。

では消費者はどうでしょうか?消費者はほとんどが企業に勤めている労働者ですが、その収入源である給料はなかなかあがりません。
企業の景気がよくなって給料が上がるとしても、それは1年後の定期昇給の時です。


王国の例のように気前よく通貨供給量が2倍になるほどの給付金を配ってくれればいいですが、現実にはそうはいきません。
つまり労働者はなかなか給料が上がらないのに、モノの価格だけ上がっていくので、インフレでは損をします。

インフレ時には、企業は得をして、労働者は損をするのです。

デフレになる?その理由と損をする人

次にデフレとなる原因を挙げてみます。

デフレになる原因

まず需要低迷が挙げられます。外食も控えなければならない、イベントもない、旅行も行けないとなると、需要が冷え込みます。
モノを買ってくれなくなるので、モノの価格は下がっていきます。

さらに需要の減少は、原油価格の低下も招きます。
製品を作る必要がなくなるので、製品の原材料としてもエネルギー源としても石油の必要性が低くなり、原油価格は下がります。
実際、原油価格は4月に大きく落ち込み、一時期は原油を買うとお金がもらえるという異常事態も発生しています(備蓄コストがかかるのを回避するためにお金を払ってでも買ってもらう)。
5月以降はやや持ち直していますが、それでも昨年12月より3割ほど安い価格で推移しています。

さらに一番大きいのは、節約、買い控え心理です。

これから不況になるという心理が、モノを買うことを控えさせて、節約志向に人々を向けさせると、需要がさらに減っていき、モノの価格が下がっていくという負のスパイラルに陥っていきます。

デフレになる原因は、この節約買い控え心理が一番大きいとも言えます。

ではデフレになった場合、損をするのは誰でしょうか?

モノの価格が下がるので、消費者は得をすることになります。
企業にとっては売上が減ることを意味しますから、逆に損をします。
さらに、消費者の得をする効果も短期間しか持ちません。
長期的には、企業の所得が減り、給料を減らす方向に向かい、さらに人員削減など雇用も減ることになります。

そのままデフレが続けば経済が停滞し、バブル崩壊後やリーマンショックのときのように暗い経済期を迎えることになります。

デフレは長期的に見ると、企業、労働者どちらにも損となり、しかもインフレ以上に経済ダメージが大きくなる可能性があります。

過去を振り返ると、1930年初頭の日本はデフレでした。
昭和恐慌と呼ばれる時期です。
ちょうど今の状況はこの時代に似ていますので、ここで学べ昭和恐慌に学んでみましょう。

歴史に学ぶ

当時日本は、1929年アメリカ発の世界大恐慌による不況に陥っていました。

そして日本の物価は2年連続10%以上下がります。デフレ突入です。

ここで大蔵大臣に就任した高橋是清(たかはしこれきよ)は、大胆な政策を打ちます。

高橋是清

まず就任早々、金本位制を廃止し、貨幣の供給量を増やします。
金本位制というのは、円と金を交換できる制度のことです。

日本は一度廃止していた金本位制を、復活させていました。これは円の信用度をあげるためでしたが、金本位制は金の保有量と貨幣の発行量がリンクされてしまい、思うように貨幣を増やすことができません。

そこで高橋是清は金本位制を再び廃止したのです。
そして貨幣の発行量を増やすことができる法律改正を行います。

また、今では禁じ手とされる国債の日銀引受による積極財政政策を実施します。
国債を発行して、それを日銀に買わせるのです。
これにより政府はお金を自由に増やすことができます。

この国債の日銀引受を認めると、国が好き勝手にお金を増やすことができてしまうため、今では財政法という法律で原則として禁止されています。

とにかく、高橋是清は当時において打てる手をすべて打ったという感じです。
これによって、市場の心理が、インフレになるかもしれない、という発想に転換していきます。

デフレから抜け出すためには、この市場心理がインフレ予測へ変化していくことが重要です。

来年はインフレになるかもしれないと企業家が思うと、売上が回復するかもしれないからもっと製造しておこうとなるからです。
さらに消費者もモノの価格が上がるから今のうちに買っておこうと、買い物心理が変化します。

これにより日本は短期間に昭和恐慌というデフレから脱却することに成功します。

アメリカはニューディール政策という後にケインズ経済学という学問の一分野を作るほど有名となる政策でデフレを脱出しますが、この政策は高橋是清が行ったものとほぼ同じです。
しかも高橋是清のほうが時期的に早く、世界に先駆けた画期的な手法だったのです。

ただ、その後ハイパー・インフレになることを避けるため、高橋是清は緊縮財政へと転換します。

ハイパー・インフレとは、短期間のうちにモノの価格が何倍、何十倍にもなることです。
最近ではベネズエラが2,600,000%というとんでもないハイパー・インフレを引き起こしました。

高橋是清もこれを恐れて国家予算を削るなどの手を打ちますが、軍の予算も削ります。

これが軍部の怒りを買い、1936年(昭和11年)、二・二六事件で凶弾に倒れます。

アフターコロナの経済

昭和恐慌は金融緩和と積極財政政策で短期間にデフレ脱却をはたしましたが、その後インフレ懸念もありました。

そして、現在。

政策は現在も同じ路線

・コロナ対策予算230兆円という大規模な予算となっています。
・日銀「必要があれば躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる」と何度も発表しています。

先ほど書いたようにマネーストック5月は4.1%増とここ10年で最高の伸びを示しています。

経済評論家の主張はいろいろ分かれていますが、短期的にはデフレだろうがインフレになる恐れもある、という主張が多く見受けられます。

これは上で書いたようことが前提にあります。

まとめ

・インフレは企業家が得をするが、労働者は損をする
・デフレは短期的には労働者が得をするが長期的にはすべての人が損をする
・アフターコロナではインフレ、デフレどちらにも動く要因がある
・1930年代の昭和恐慌のときのようにデフレからインフレへ動く可能性も

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