【こんな方向けです】
難しい話はいいから、量子コンピュータのイメージだけでもつかみたい。どんなことに役立つのか、自分の将来の仕事にも影響するのか、知りたい。
【結論】
量子コンピュータの最大の特徴である、手順を省く仕組みさえ理解してしまえばいい。あとはこの未来のコンピュータを使ってなにをするかだけ。
※この記事はTOKYO FMの経済ラジオ番組「ジュグラーの波~澤と美音のまるっと経済学~」2020年4月23日放送回の原稿を元に加筆・修正したものです。
この記事は主に次の書籍を参考にしています。
- 「いちばんやさしい量子コンピュータ-の教本」(湊雄一郎:インプレス)
- 「量子コンピュータが変える未来」(寺部雅能/大関真之:オーム社)
- 「絵で見てわかる量子コンピュータの仕組み」(宇津木健/徳永祐己:翔泳社)
- 「光の量子コンピュータ-」(古澤明:集英社)
- 「Newton別冊 量子論のすべて」(ニュートンプレス)
この記事を読めば次のことが理解できます。
・量子コンピュータはハード性能が爆速なコンピュータではなく、手順が省ける省力型コンピュータ
・渋滞解消のように同時に莫大な組み合わせを処理しなければならないことに向いている
量子コンピュータって何に使われる?
私は文系人間であり物理学に関しては、ずぶの素人ですが、量子論についてはなぜか昔から好きで、たくさんの本を読んできました。その知識を総動員して、高校生でもわかるように、この量子コンピュータの特徴をお伝えしたいと思います。

(間違えている部分があったらごめんなさい。広い心でご指摘ください)
次の東北大学准教授大関真之さんの言葉が、文系人間である私の心も躍らせてくれます。
「(量子コンピュータの特徴さえつかめれば)世の中を見回してみると、思わぬ応用例が見つかるかもしれません。それは量子コンピュータの専門家だけではなく、読者の皆さんにもできることです。」
(「量子コンピュータが変える未来」寺部雅能/大関真之:オーム社)
そして、その量子コンピュータはすでに実戦投入が始まっています。
量子コンピュータで期待される分野として次のものがよく挙げられます。
- AI
- 自動運転
- 渋滞解消
- 新素材の開発
- 暗号を革新
いずれも近未来の社会を変える力のあるものです。
つまり、量子コンピュータを知らずして経済は語れない時代がもうすぐ来るのです。
量子コンピュータは私たちの生活に直接影響しようとしています。
たとえば日本のデンソーが、量子コンピュータを使ってコロナ治療薬の開発する国際プロジェクトに参加すると表明しました(2020年3月31日デンソーニュースリリース)。
新薬の開発に量子コンピュータが役に立とうとしているのです。
量子って何だ?
そんな量子コンピュータは、量子を使って計算をするコンピュータです。
まず量子とは何か。正確に答えることができますか?
物質を小さくしていくと、原子になりますね。さらにその原子を形作っている小さな電子・中性子・陽子などをすべて量子と呼びます。量子というのはこれらの総称です。光の光子なども量子です。
つまりミクロの世界です。

このミクロの世界では、我々の世界の常識では考えられないような現象が起きます。
それが「量子重ね合わせ」です。
量子コンピュータは、この量子の不思議な現象を使ってデータを処理するものですから、まずはサクッと理解しちゃいましょう。
重ね合わさっている[電子ちゃん]
ここで、電子ちゃんという子の部屋を思い描いてください。ドアの奥には並んだ2つの部屋があります。左が0番部屋、右が1番部屋とします。
この2つの部屋が量子が存在できる空間だと考えてください。

そして部屋の中には[電子ちゃん]がいます。電子も量子ですから、電子ちゃんは量子です。
では電子ちゃんは、どちらの部屋にいるのでしょう?
我々の世界では、0番か1番か、どちらか一方にしかいないでしょう。
でも、量子の世界では、電子ちゃんは、どちらの部屋にもいるのです。

2つの場所に同時に存在するなんて、あり得ないだろう!
でも、これが実際にあるんです。量子、最大の特徴でもあり、謎でもあります。
量子は、同時に複数の場所に存在しているのです。我々の世界ではあり得ないことですが、量子のようなミクロの世界ではあり得るのです。
これは架空の話ではありません。現実の話です。
さらに不思議なのが、あなたがドアを開けると、[電子ちゃん]は0番か、1番かどちらかにしかいないのです。

(ドアの色が変わっていますが、これは大人の事情です。お察しください)
ドアを開けるというのはここでのたとえですが、量子コンピュータでは計算結果を知るために、量子がどの位置にいるかを確かめます。
この確かめることを「測定」といいます。量子の位置を測定するということですね。
ドアを開けたら0番か1番にしかいないなら、最初からどっちかにしかいないんだろう
そう思われるのもごもっともです。
でも、ドアを開ける前は、重ね合わさっているとしか考えられないことが実験の結果起きるんです。ドアを開ける前は、電子ちゃんは、0部屋と1部屋で重ね合わさっていることは確実です。
そしてドアを開けた時、つまり測定した時、[電子ちゃん]が0番か、1番か、どちらの部屋にいるかは、確率の世界です。
2つの部屋ですから、どちらかにいる確率は、50%ずつになるだろうと推測されますね。
なぜそんなことが起きるんだ!
この詳しい理由は、実は分かっていません。
電子などの量子には<波>の性質と、<粒子>の性質の両方が備わっていることからくるものらしいですが、なぜそうなのかはまだ解き明かされていません。
専門の物理学者でも理由は分からないのですから、我々が分かる必要もありません。
ですからサッサと先に進みましょう。
2つの量子[電子ちゃん]、[光子さん]
今度は[光子(こうし)さん]の部屋も想像してください。やはりドアの奥には0番部屋と1番部屋。
[光子さん]も量子で、0番部屋と1番部屋で重ね合わさっています。

[光子さん]も[電子ちゃん]と同じように、ドアを開けた瞬間、0番か、1番か、どちらかにいることになります。

本当に重ね合わさっているのか?ドアをちょっと覗いて本当に重ね合わさっているのか、調べてみろよ!
しかしこれはミクロの世界です。
ちょっと中身をのぞき見ようものなら、つまり測定するために光などを当てたりすると、あっという間に重ね合わせ状態は崩れてしまい、0番か1番のどちらの部屋にいるのか確定してしまいます。
重ね合わせの世界は脆(もろ)く儚(はかな)いものなのです!
さあ、ここからいよいよ量子コンピュータでの計算方法です。
従来のコンピュータとは計算方法が全く違うことを理解してください。
[電子ちゃん]+[光子さん]
ここで、2つの量子[電子ちゃん]と[光子さん]をたし算してみましょう。

ドアを開けて[電子ちゃん]が0番部屋にいたら0、[光子さん]が1番部屋にいたら1となりますから、この場合は[0+1]というたし算になりますね。

他にはどんなケースが考えられますか?
上の例以外には[0+0][1+0][1+1]の3通りが考えられますね!
ですから全部で[0+0][0+1][1+0][1+1]の4通りです。

はい、これが量子コンピュータのすごさです!
すごくないですか!!
何がすごいのか、おわかりになりましたか?
何がすごいかさっぽり分からん
だって、
[電子ちゃん]+[光子さん]とするだけで、
[0+0][0+1][1+0][1+1]の4通りの組み合わせが計算が一気にできてしまうのですよ!。
こんな芸当、量子コンピュータにしかできません!
もし、これを従来のコンピュータで計算しようとするなら、4つの式を順番に実行しなければなりません。

おわかりになって頂けたでしょうか・
ここが量子コンピュータ一番のポイントです。
量子コンピュータは、従来のコンピュータにくらべて、格段に計算の手順が少なくて済むコンピュータなのです。
上の例でも、従来のコンピュータに比べて量子コンピュータは4分の1の手順で済みます。逆にいえば、4倍速い!ということです。
でもたった4倍じゃん?
と思われた方。確かに2量子ぐらいだとそんなにすごくありません。
でもこれが4量子あるとどうでしょう?
量子コンピュータ最初の一歩 後編に続く・・。
コメント
[…] 「量子コンピュータ最初の一歩 前編」の続きになります。まだ前編を読んでいないかはこちらから。 […]
[…] 前回の記事「量子コンピュータ 最初の一歩! 前編」で次の計算式の話をしました。 […]